お客様は「価格」よりも「費用対効果」を重視している
今回は「値引きでクロージングすることの功罪」についてお伝えします。
「お安くしますから」と発注を迫る営業手法は少なくありません。この「値引きクロージング」は、確かに一定の効果はあります。しかし、価格だけで購買を決定するお客様が増えることは、将来に渡ってのリスクを高めます。
営業としてはお客様からの保留や失注は避けたいものです。自分自身が武器を持っていない場合、つい値引きで勝負してしまいがちです。しかし、価格が最後の武器になると、「お客様は結局、価格でしか決めないのだ」という先入観が強まります。
営業組織の中には頻繁に値引きをしても成果が出ない人と、値引きせずに成功する人がいます。同じ商品やサービスを提供していても、なぜこのような差が生じるのでしょうか。それは、高い成果を上げる営業ほど「費用対効果の納得感」をしっかりとお客様に感じさせるやり方を体得しているからです。実際に、お客様は費用対効果を重視して決めています。
カギはお客様の本音を理解すること
提案を断るお客様は、建前で「他社が安かったのです」と言いやすいです。しかし、お客様は費用対効果に納得がいっていない場合、本音を隠して「思っていても言わないこと」が多い傾向があります。価格を武器にクロージングする癖が残っていると、この壁をいつまでも突破することはできません。
効果的なクロージングには、「認知的不協和」に対する理解が不可欠です。値引きで決断を促してしまうと、「納得していないけれども買う」というお客様を増やしてしまいます。そこで注目すべきは、「納得していないポイントを特定する」ことです。それには「質問力」が必要です。
「価格の件はいったん置いておいて」という枕詞は、不必要な値引きを避けるために有効なフレーズです。価格の話をする前に、まずは以下の質問への答えを深掘りしましょう。
- 「価格をいったん置いておくとして、XX様の個人的なご意見はいかがでしょうか?」
- 「価格をいったん置いておくとして、他社と比べた時の順位はいかがですか?」
一方、「価格が大事」と公言するお客様も一定の割合はいらっしゃいます。そんな時は、「価格が大事だとは理解しておりますが、御社も価格だけで決めるわけではないと思うので1つ伺いたいのですが……」という、「枕詞の枕詞」をつけてから「価格以外で、お気になる点があれば教えて下さい」と質問しましょう。
多くの営業は下記の(A)と(B)の違いを理解しないまま(B)の対応をしてしまいます。
- (A) 価格を重視するお客様の「考えていること」を理解する
- (B) 価格を重視するお客様の「言うがまま」に値引きをする
価格が大事だというお客様でも、頭の中には必ず「費用対効果」の目線があります。(A)の角度で切り込まないと、お客様の頭の中は覗けません。
ごくわずかに「もうどこから買うのでもいい。はっきり言って、価格以外には何も見ていない」というお客様がいらっしゃいます。ここまで聞いても価格以外に考えていないお客様は、会社として付き合うべきかどうかの経営判断をしましょう。
購買行動の基準となっている「判断軸」
値引きは営業にとって避けられない課題の1つです。何故なら、お客様は価格に敏感で、できれば低価格で購入することを望むため、営業に対して価格を下げるよう圧力をかけることが多いからです。「提案自体は良かったが、価格が高かった」といったフィードバックを受けることは多いです。
営業はこのような状況から、「お客様は結局、価格で決定するのだろう」と考えがちです。しかし、繰り返しになりますが、お客様が真に重視しているのは価格そのものよりも、その価格がもたらす「費用対効果」です。それについては弊社代表の高橋が書いた『無敗営業 「3つの質問」と「4つの力」』(日経BP社)でも詳述しています。
価格を気にするお客様へのアプローチは確かに難題です。一般的には「価格で勝負するな、価値で勝負せよ」と言われますが、それは一体何を意味するのでしょうか。
実は、それは「判断軸」の問題です。お客様が何を基準に商品やサービスを選ぶのか、それが判断軸です。価格が判断軸のトップに来ることもあれば、価格以外の要素が重要だと考えることもあります。
弊社代表の高橋は大きな買い物や重要な意思決定(例えば引越しなど)をする際には、営業のスキルを非常に重視しています。なぜなら、長期的に見たとき、その人がしっかりしていれば何か問題が起きた際の相談相手となり、後悔が少なくなるからです。
要するに、「後悔しないための基準は何か」を明確にしておくことが重要です。高橋の場合、その基準は「しっかりとした営業のスキル」となっています。これが、高橋がお金を使って何かを買う際の判断軸となっています。
買い物においては「正しい判断」と「意思決定」は一筋縄ではいきません。企業が商品やサービスを購入する際も、完璧な選択をするのはとても難しいです。それは情報というものが不完全であり、意思決定というのは一度決定したら後戻りが困難だからです。
そこで、多くの人が選びやすい基準として「価格」が挙げられます。それは数字で表されるため明確であるからです。しかし、低価格だけを追求すると、「満足できない体験」が生まれがちです。
お客様の「判断軸」を書き変える
営業としてはこの問題に対処するため、「価格以外の価値」を提示しようとするかもしれません。しかし、それだけでは不十分です。
営業はお客様の判断軸を変える、つまり「認識を書き変える」必要があります。
社会人生活を何年かやると、ビジネスにおいて前提となる先入観や世界観が形成されていきます。その前提となる先入観や世界観が一切揺さぶられなかったら、認識は書き変わりません。
それには「お客様が何を知っていて、何を知らないのか」を知る必要があります。
その際、お客様に直接「何を知っていますか?」とは聞けないので、会話を通じてお客様の知識や経験の範囲を探る必要があります。
単に「価格だけではダメですよ」と言っても、お客様が受け入れてくれるわけではありません。例えば、「このサービスは価格ではなく、ユーザーの満足度で決まりますよ」と説明しても、多くのお客様は「それはわかっているよ」と反応するでしょう。
お客様が既に知っていること、まだ知らないこと、そして何に心が動かされるのかを具体的に理解して、営業活動をする必要があります。
このプロセスは、組織内で簡単に共有できるものではないかもしれません。なぜなら、それぞれの営業が積み上げてきた個人的な経験に基づいているからです。しかし、このような経験を重ねることで、たとえ高い価格設定でも確実に成約につながる力を身につけることができます。
要するに、単なる価格競争ではなく、お客様の感情や認識に深く寄り添い、その知識の境界線を探ることが重要です。そして、そのためには日々の営業活動での個人的な体験を積み重ねていく必要があるのです。この視点を持つことで、価格以外の要素でも競争力を高めることが可能になります。