お客様の状況を具体的に想像しよう
営業として一定の成果を上げている方であれば、レスポンスの早さに気を配っている方の割合は高いはずです。
お客様からすればレスポンスが早いのは嬉しいことですし、仕事ができる営業であるということが分かりやすく伝わります。それを武器にしてお客様の信頼を得ている方も多いでしょう。
一方で、営業では単純にメールの返信を早くすればいいというものではありません。重要なのは、お客様のオフィスを想像するということです。
お客様のオフィスを想像する際、現在は出社とリモートワークの両方がありますが、ここでは出社されている場合で考えてみましょう。オフィスの設計としてよくある配置は、チームのリーダーなどがメンバー全員の方向に向かう形で机が配置されており、その人から見て右手と左手に机が伸びていて、それぞれのメンバーが向かい合うように椅子が配置されているというものです。
日々の仕事の中で、「ちょっといい?」といった感じで声がかかったり、会議になるとみんなでパソコンを持って会議室に移動したりする光景がよく見られます。突然何かが降ってくることもよくあります。お客様が現場の方であっても、あるいは事業部長や本部長という立場の方であっても、上に社長や経営陣がいらっしゃれば、突然何かが降ってくることはよくあるものです。それによって慌ただしくなったり、急いで対応しなければならなかったりすることがよくあります。
そういった環境の中で仕事をしているとき、足回りが速く、何かあったらすぐに対応してくれる人がいるだけでかなり仕事がやりやすくなります。
仕事では「この人に向けた説明資料を作らなければならない」「明日の社内ミーティングの準備をしなければ」といったことが次々と発生したり、あるいは「社長にこれをどう説明しようか」と頭を悩ませたりすることがあります。
そのような状況で、別のオフィスにいる人を一緒に仕事をする仲間として考えた場合、その人となかなか連絡が取れない状態と、すぐに連絡が取れる状態では仕事のしやすさが大きく異なってきます。
このように考えるとレスポンスの早さだけではなく、お客様が「この人と一緒に仕事を進めるとやりやすい」「成果が出そうだ」と思えるかどうかが非常に重要になります。
重要なのは「会社の壁を感じさせないこと」
弊社代表の高橋は20代のときに業界の素人として仕事を始めましたので、最初はお客様の仕事の進め方がよく分かりませんでした。今のご時勢ではなかなか難しいかもしれませんが、当時高橋は打ち合わせをしたお客様に「スケジュール手帳の雰囲気を見せていただけませんか?」とお願いしていました。
その際、具体的な情報が見えてしまうと問題があるため、会議室で数メートル離れた距離からお客様の手帳を見せていただくようにしていたのです。当時はアナログの手帳で予定管理をされている方が多く、どのような予定の組み方をされているのか、雰囲気だけでも見せていただけないかとお願いしていたのです。もちろん、個別の企業名などが見えないように配慮しながら、予定の入れ方を確認していました。
そうすると、お客様の予定に特徴的なパターンがあることがわかりました。例えば「1日中、研修で不在」というようにまとまった時間が確保されている日があったり、逆に打ち合わせがびっしりと詰まっている日があったりするのです。スマートフォンがない時代だったため、「研修で不在」という日はあまり物事が進まないゆったりとした日となっていました。
そのように丸一日研修で不在の日は一見すると仕事ができない日のように思えますが、お客様が研修に同席している時間というのは「研修の場にはいるものの、体は比較的空いている」という状態だったわけです。
そこで、お客様に「可能な範囲で構いませんので、研修に同席される際にこのトピックだけ少し考えていただいて、数行のメモを書いていただくことは可能でしょうか」というように依頼し、「私はこういう資料を作っておきます」という形で作業を分担していたのです。つまり、同じ会社で働いているかのように仕事を進めていたのです。
営業ではレスポンスの早さが強調されますが、重要なのは会社の壁を感じさせないほど一緒に仕事をしていて心地よい相手になることです。
そうなれば、お客様としても情報を遮断してベンダーとして扱うより、一緒に働く仲間として頼りにした方が仕事がうまく進むということになります。
「お客様の忙しさ」をしっかり把握しよう
以前、高橋はよくお客様に「1日に何通ぐらいメールが来ますか?そのうち何割くらいに目を通すのですか?」と質問していました。企業の規模が大きくなると、皆さん1日に軽く数百通はメールを受信していました。ただし、そのうち実際に目を通されるのは1割程度で、9割程は読まないということでした。
さらに詳しく「未読のメールの中に重要な内容が入っているかもしれませんが、それについてはどうされていますか?」と尋ねると、「そういうものは流しておきます」という回答が返ってきていました。このようにして、徐々にお客様の働いている風景を詳しく把握していたのです。
お客様も人間ですから、このような状況において「この人を味方につければ仕事がうまくいく」ということを強く確信できれば、社内で予算を確保して発注するために動いてくれるようになります。そして、一緒に働く仲間として頼りにし、信頼を寄せてくれるようになるのです。
単にメールのレスポンスを早くするだけでは、ある一定レベル以上の差はつきません。確かにお客様にとってもレスポンスが早いのはありがたいことですが、それだけでは一緒に仕事を進める理由にはならず、受注率はそれほど上がらないでしょう。
しかし、一緒に働く相手としてストレスがなく、頼りになる存在であれば、お客様も自然とその会社に発注するためのさまざまな動きをしてくださるはずです。
ただし、そこで難しいのはお客様が非常に忙しい場合があるということです。高橋がお客様に手帳の雰囲気を見せていただくようにお願いしたり、メールをどのように処理しているのかについて聞いたりしたのは、「お客様が本当のところどの程度忙しいのか」をしっかり把握するためです。
「お客様が本当のところどの程度忙しいのか」をしっかり把握しているのと、単にお客様から「忙しい」と言われただけで「お客様は忙しいんだな」と思い、なかなか捕まえられないでいるのとでは雲泥の差が生まれます。
「お客様を深く理解すること」がアドバンテージになる
レスポンスの早さは、お客様が頼りにしてくださるための入口に過ぎません。
「お客様1万人調査」では、お客様は「前回の打ち合わせでの要望に応えてくれた」ということを最も魅力的に感じているという結果が出ています。「打てば響く」ということが一緒に仕事をする相手として大きなアドバンテージになるのです。
それには、お客様を深く理解した上で適切なコミュニケーションを取ることが欠かせません。若手でまだ経験値が少なく、お客様とのコミュニケーションがうまく取れない、メールの返信が来なくて困っている、といった方がいらっしゃるかもしれません。そのような場合には、先ほどお伝えした高橋が20代の頃に行っていたようなやり方で、何らかの手段でお客様のオフィスの様子を詳しく把握することが重要です。
今のご時勢ではなかなかできないかもしれませんが、高橋は以前、お客様のオフィスの入口にある座席表を参考に、誰と誰が隣で仲が良く、普段どんな会話をしているのかといったことをメモし、できるだけリアルにイメージが湧くようにしていました。当時は「別の会社でありながら、同じ会社で働いているかのように仕事をするにはどうしたらいいか」ということを強く意識していたのです。これは後になって非常に大きな経験になったと高橋は言います。
リモートワークが導入されている現在でも、例えば子育て中の方に「育児と仕事の両立をどのようにされているのですか?」といった質問をすると、「実は子供をお風呂に入れた後に仕事をしているんです」といったような具体的なことを教えていただけます。
このように相手の状況を詳しく把握しておくことで、適切なレスポンスのタイミングやアプローチ方法が見えてくるのです。





