重要なのは本質を炙り出すこと
今回は質問の鋭さで違いが生まれる5つのポイントについてお伝えします。
営業が投げかける質問の鋭さによって本質的な論点があぶり出され、商談の雰囲気が一変することがあります。一方で、一問一答で尋問のようなヒアリングによって商談の熱量が落ちてしまう場合もあります。「質問の鋭さ」の違いは、「5種類の質問」をどう使い分けるかです。以下、具体的に説明していきます。
1
相手にとって自明なことを単純に尋ねる質問
・「他社のサービスを利用したことがありますか?」
・「その際に満足/不満だった点はなんですか?」
こういった質問は確かに必要ですが、「単純に尋ねる質問」だけを連発してしまうと、一問一答的な展開になってしまいます。特に初対面のお客様との商談では注意が必要です。
2
念のために確認する質問
・(一通り聞いた後に)「御社の課題は、●●ということで合っていますか?」
・「御社のIR資料を拝見して●●と書いてありましたが、現場目線から見ても確かにそうなのでしょうか?」
「小さなYesを積み重ねろ」と教わった営業は、このタイプの質問を多く投げかけがちです。
3
情報の解像度を上げるために、具体的に踏み込む質問
・「AとBとではどちらに近いでしょうか?」(選択肢付き限定質問)
・「特にここ1ヶ月、どんなことを議論されていますか?」(条件つき拡大質問)
この質問で返ってくる答えによって、営業側としてはその後の進め方を絞り込むことができます。
4
気づきや発言を促す質問
・「それはどういうことなのでしょうか?」
・「どんなところに違いを感じられましたか?」
ある程度こちらに仮説があるものの、営業側から言い出すよりもお客様に気づいていただく、もしくはお客様の口から言っていただく質問です。相手の発言量を増やしていくことにより、お客様の思考も深まります。
5
一緒に考え、探究する質問
・「そもそも、なぜこういったことが起きているのでしょうか?」
・「それは本当に正しいのでしょうか?」
タイミングや使い方は難しいですが、まだ見えていない大事な「何か」の発見につながることもあります。ただし、場合によっては的外れな質問になりかねないこともありますので、リスクのある質問でもあります。
質問のバリエーションを増やす
これら5つの質問の「配分」について考えてみましょう。例えば、営業を始めたばかりだと「①を連発して最後に②の質問をする単調なリズムの商談」や「②が多すぎて相手の温度感が落ちる商談」になりやすいです。
「③情報の解像度を上げるために、具体的に踏み込む質問」や「④気づきや発言を促す質問」が適度に盛り込まれていると、単調なリズムの商談にならなくて済みます。そのためには「どこで具体的に踏み込むか」の勘所や、「どこまで相手に促し続けるか」の見極めが必要です。これはロールプレイによる練習だけではなく、実地の経験が重要になります。
「⑤一緒に考え、探究する質問」は使い所がなかなか難しいです。お客様にも見えておらず、自分もよくわからない領域にボールを投げる質問です。「③情報の解像度を上げるために、具体的に踏み込む質問」や「④気づきや発言を促す質問」によって場が適度に温まっている(お客様の思考も刺激されている)状態になっていると、「⑤一緒に考え、探究する質問」が使いやすいでしょう。
特に③〜⑤は実践を通して磨き上げていくことが重要です。また、気心の知れたお客様との商談は質問のバリエーションを増やすチャンスでもあります。事前に質問の準備をきちんとしておいて、積極的にチャレンジすることがお客様と共に創る幸せな未来につながります。
95%の営業は2種類の質問しかしない
当社がこれまで多くの営業をサポートしてきた中で気づいたことがあります。それは、多くの営業が主に2種類の質問しかしていないということです。それは「見積もりを作るための質問」と「受注のための確認の質問」です。これらの質問が全体の約95%を占めています。
「見積もりを作るための質問」はお客様のニーズを明確にするためや、適切な提案を行うために不可欠です。一方で「受注のための確認の質問」とは、通常BANT情報に関するものです。BANT情報とはBudget(予算)、Authority(権限)、Need(ニーズ)、Timeline(注文時期)の頭文字をとった言葉です。「ご検討状況はいかがでしょうか?」といった問いも、このカテゴリーに含まれるでしょう。
ただ、これらの質問は営業側にとっては意味があっても、お客様にとっては必ずしも有用な質問ではありません。質問の仕方によっては、お客様が防衛的な反応を見せることもあるかもしれません。
コーチングで「質問力」を磨く
当社代表の高橋が質問力を身につけたきっかけは20代の頃にコーチングを学んだ経験でした。コーチングは質問が中心であり、質問をしないと対話が進展しません。
問題の核心に触れる質問は答えにくいものの、自分が避けていた事実と向き合う機会となります。例えば「忙しさ」を理由にして避けていた課題が、実は自分の「課題に対する抵抗感」から来ていると気づくようなことがあるかもしれません。
高橋がコーチングを学んでいた20代の頃は、研修教材を企業の人事部に提案していました。その際、高橋がその研修をより良いものにしようと思い、人事の方に現場のことについて尋ねる場面がよくありました。
人事の方は2パターンあります。現場から移動してきた方と、ずっと人事畑の方です。後者の方に現場のことを尋ねると、不愉快そうな反応が返ってくることがありました。ずっと人事畑の方は、現場のことがあまりわからないからです。
その時、高橋は次のようなことを言いました。
高橋
でも、ちょっと待ってください。●●さんのお仕事というのは、ある意味現場の人をハッピーにするための研修ですよね。その現場の人のことがわからない状態で研修を企画して上手くいくのかというと、やはりそうではないと思います。
その上で、次のように打診したのです。
高橋
もしよろしければ、一緒に現場の方のヒアリングを設定いただけませんか?ぜひ●●さんも同席いただいて、一緒に意見書を作るための材料としてそのヒアリングを上手く使っていきませんか?
結果として、現場目線の要素がしっかりと入った研修を作ることができました。
1on1を質問の練習に活用しよう
質問したときに、必ず相手の方が好意的な反応を示してくださるわけではありません。しかし、それでも相手に踏み込んで聞かないことにはやはり質問は上手くなりません。質問は沢山試すことによって上達します。
コーチングを学びたいと思っても、時間がないという方もいるかと思います。そのような方には、職場での1on1の時間を質問の練習に活用してもらうことをおすすめします。質問のスキルを深める良い機会になるでしょう。