営業で求められるのは「妥当な解を探す力」
営業活動に行き詰まったとき、「素直な営業」は様々なアドバイスを求め、迷子になりがちです。書籍、上司の指導、先輩の助言…と情報収集を続けても、成果には結びつきません。この段階で最も重要なのは、「仮説検証ゲーム」の思考を身につけることです。
営業活動には「判断するのはお客様である」という構造があります。商談の獲得には、お客様に「このサービスが役立つかもしれない」と感じてもらう必要があります。
しかし、ここで営業が直面するのが「正解にたどり着くのが難しい」という問題です。それには以下のような要因があります。
- お客様と状況によって「正解」が変わる
- 「正解」だったかどうかは教えてもらえない
- お客様も「正解」をわかっていないことが多い
弊社が実施した「営業1万人調査」で営業5003人にアンケートを取ったところ、「口数が少なく反応が薄いお客様との会話」への苦手意識が最も強いことがわかりました。
こうした状況に対して、「どのアプローチが正解か?」と考えを巡らせることになりますが、結局のところ「正解」はわかりません。
そこで必要なのが「妥当な解を探す力」です。
営業ではトーナメント形式で「妥当な解」を探る思考プロセスが求められます。色々と試してみてどれが効果的かを確認し、この試行錯誤を頭の中で回すことが「仮説検証ゲーム」をするということです。
営業は「妥当な解を探す力」をマスターしておくことで、成長が止まってしまうことを防げます。いくつかの方法を試し、現時点で最も効果的だと考えられる選択肢を選ぶことで、次のステップに進むことができるのです。この力を持っていれば、営業の落とし穴にハマらずに済みます。
選択肢を増やし、試してみよう
この「仮説検証ゲーム」がしっかりと身につくと、将来的に大きな売上を達成するための土台になります。しかし、それには一定のリスクが伴います。例えば、お客様とのアポイントが取れない場合に、「お客様に電話をする際、こう話しましょう」と上司が指示を出すことがあります。それを忠実に実行する人もいれば、自分なりにアレンジを加える人も、全く指示を守らない人もいるでしょう。
そのときに、先ほどの「仮説検証ゲーム」が身についてしまうと、上司からのアドバイスを100%そのまま実行するということが、良くも悪くも少なくなっていきます。つまり、自分で考えるようになるため、上司が完全にコントロールするという状況ではなくなってしまうわけです。
これには良い面と悪い面がありますが、結果的に自分で考える力が鍛えられることになります。そして、ある段階からは他人の指導や指示を完全には受け入れず、話半分で聞くようになることもあります。
これは売れる営業になるためには避けられないことです。なぜなら、人の言うことをただそのまま聞き、自分の意見を全く持たない人が驚異的な成果を上げることは難しいからです。
「仮説検証ゲーム」とは選択肢を増やし、それを自分の中で絞り込むプロセスを持つことです。例えば「A」という方法だけでなく、「B」という方法も、「C」という方法も、「D」という方法もあるかもしれない、というふうにひとつのやり方に固執せず、より良い方法を探し、新しい方法があればそれを試してみることです。ただ頭の中で考えるだけでなく、実際に試してみる選択肢を増やすということです。
次に、その選択肢同士を競わせて絞り込みます。これは、実際にやってみてどちらが良かったかを自分自身で確認するということです。
この「自分でやってみて確かめる」という部分がなければ、前に進むことはできません。例えば本で勉強したり、X(旧Twitter)で情報を集めたり、セミナーに参加したりすることは有益ですが、実行に移さなければ選択肢が増えるだけで、どれが最適かは判断できません。
ですから、どこかのタイミングで「複数の選択肢を試してみて、どれがより良い方法だったか」を考える必要があります。これをしなければ、自分自身の中で確信が深まっていきません。
「無駄を許容すること」が「考える力」を伸ばす
「仮説検証ゲーム」を組織内で実行する場合、マネジャーや上司には一定の度量、つまり器が求められます。それは無駄を許容することや、自分の指示通りに行動しないことを受け入れる度量です。
「頭では理解できても、実際にやるのは難しい」という声もあります。
組織内でのマネジャーとメンバー、あるいは上司と部下という関係においては指揮命令系統が存在するため、「上司なのだから、言った通りにやりなさい」と言う権限は当然ありますし、指示を出すこともあります。
しかし一方で、上司の言うことが必ずしも成功するとは限らないため、メンバーの力を伸ばしたいと思うならば、多少のトライアルを許す余地を作ってあげることが大切です。
弊社代表の高橋はアクションの中身を2つのレイヤーに分けています。1つのレイヤーは「タイミング」、つまりいつ実行するかです。もう1つのレイヤーは「誰に、何を、どのように」という内容の部分です。
タイミングに関しては一度逃してしまうと取り返しがつかないこともあるため、「このタイミングでやってくれ」と指定します。しかし、「誰に、何を、どのように」については、いくつかの選択肢を用意しておいて、「好きな方法を選んで実行してくれ」と指示をします。
「誰に、何を、どのように」という部分は、多少間違ってもやり直しがききますし、選択肢を増やしやすいです。そのため、「タイミングだけは絶対に守ってくれ。でも、どうやるかは任せる」という方針です。
「任せ方」については、「こういう選択肢もあるけど、やるかどうかは任せるよ」という場合もあれば、複数の選択肢を提示して「この方法でもいいし、他に良い方法があればそれでもいいよ」ということもあります。
こうすることで、少なからず無駄が発生したり、指示通りの方法ではないアプローチが出てきたりしますが、それをある程度許容することが「仮説検証ゲーム」を鍛える上での基本的な考え方となります。
「自分で考える力」で大きな成果に繋げよう
これは、冒頭にも述べた通り、プラスとマイナスがあります。プラスの面としては、選択肢を広げ、自分の頭で考える力を養うことで将来大きな成果を上げる可能性が生まれます。しかしその反面、指示に従わなくなることもあります。
逆に行動を細かく指示し、「絶対にこの通りにやってくれ」というアプローチを取ると計画通りの成果や成長に近づきますが、上司が描いた計画以上の結果を出すことは難しいかもしれません。
どちらの方法を取るかは1つの選択ですが、現代の状況を考えると、上司が完璧な正解を持っているケースは少ないと感じます。
実際、マネジャーと話をしていると、「正直、どうしたら良いのか分からない」という声をよく聞きます。「営業1万人調査」ではマネジャーの実に45%が自分のスキルを「世の中の平均以下」と認識していることがわかりました。
この結果には驚きましたが、マネジャーとしての業績を尋ねた際、全体の平均スコアよりも低く回答した人が45%もいたのです。もちろん、残りの55%の中には、平均より高いスコアを答える方もいましたが、「自分の営業スキルに自信がない」という管理職は意外にも多いのです。
そのように考えると、「自分の言った通りにやってくれ。無駄は許さない」というやり方よりも、ある程度「仮説検証ゲーム」をメンバーにマスターしてもらう方が物事がうまくいく可能性が高いのではないかと思われます。