クロージングにおける「最後の一押し」とは?
クロージングで特別値引きを行う前にやるべきことが2つあります。それは「ラリーの回数を増やすこと」と「自発的な追加情報の提供」です。「何かできることはありませんか?」という漠然とした打診では「何かあればご連絡します」と返されてしまいます。こちらから「ラリー」や「追加情報」に話を向ける展開にする必要があります。

多くの営業がクロージングでやりがちなのは「いま決めていただければお安くできます」という手法ですが、これは単に利益を減らすだけですし、営業の自己肯定感も摩耗してしまいます。それよりも「ラリーの往復展開に持ち込むこと」が最重要です。そのためには、あらかじめ「この営業は打てば響く営業だ」と思っていただく必要があります。
あらかじめ「この営業は打てば響く営業だ」とお客様に思っていただくにはどうしたらよいでしょうか。答えはシンプルで、提案前から「ラリー」をしておくことです。ウォーミングアップなしに「さあ、ラリーをしましょう!」とクロージングでお客様に申し上げても信用されません。もともと多往復型の営業スタイルにしておくことが大切です。
AIの浸透で「営業の効率化」が叫ばれていますが、効率化のやり方を間違えると受注率が上がりません。お客様とのやり取りを最小限にして「さあ、ご判断ください」では終盤に弱い営業になってしまいます。とはいえ、労働時間には限りがあります。ではどうしたらよいでしょうか。解決策は「10分電話商談」にあります。
やり取りの往復回数を増やすうえで強いのが「10分電話商談」です。お客様との電話もアポイントをいただくことが重要です。そして、電話の直後には自分の作業工数を空けておき、その電話で発生した「宿題」に、スーパー・クイックレスポンスで対応します。これによってお客様は「打てば響く営業」を体感されます。

次に「自発的な追加情報」についてです。これもクロージング前に答えがあります。いざクロージングをする段階で「何か必要な情報はありますか?」と聞いても、お客様からすれば「何の情報があるの?」「あなたは良い情報をくれるの?」という疑念が先に走ります。だからひとまず「何かあればご連絡しますので」となってしまいます。
「自発的な追加情報の提供」は普段からしておくことが大切です。会社のマーケティング部から送る一斉配信の情報とは別に、営業が「もしかしたらこれがお役に立てるかもと思いご連絡しました」と個別に送るメールは、案外見られています。「こういう動きができる営業なんだ」とお客様に認知されておくことが必要です。総論として、最後の一押しは「ラリーの回数」と「自発的な追加情報」なのですが、これは、いざクロージングになってから都合よく最後のワンプッシュで決まるといったようなものではなく、「提案前からの行動が後になって効いてくる」という性質のものです。すなわち、勝負は提案前に決まっているということです。
クロージングのカギは「提案前の行動」にある
ここまで述べたことについて、さらに詳しく解説したいと思います。
回答でかなり多かったものが2つあります。1つは「こちらの問い合わせや質問に対して早くレスポンスをくれる」いわゆるクイック・レスポンスです。2つ目が「見積もりや提案の出し直しを何回でも柔軟に対応してくれる」というものでした。この2つが目立ってスコアが高かったです。

これを「ラリーの回数」と定義していますが、ラリーの回数はクロージングの最後のひと押しにおいて効果的だということが定量的にはっきりしています。そして第2集団となるのが「最終交渉に向けて、ベンダー側が譲歩できるポイントを教えてくれる」、その次に「こちらから要望せずとも、意思決定に対して決定的な追加情報をくれる」というものが来ました。これを「自発的な追加情報」と定義します。
第1集団が「ラリーの回数」で、第2集団が「自発的な追加情報」だとしたときに、この「最後のひと押し」に持っていくことがカギです。営業からすると怖いことは、「検討しますのでお待ちください」と言われてシャットアウトされてしまうことです。その後何もできなくなってしまうため、これは避けたいことです。
どうやってシャットアウトされないようにするかということについてですが、遡って考えていくと、「この営業はラリーにも応じてくれるし、何か有益な情報をくれそうだな」とクロージングの前に思っていただくことが重要です。
お客様が意思決定をするポイントは見積もりを見る前であり、営業が想像するよりもだいぶ手前の段階で勝負が決まっているということです。これは実際のデータからも裏付けられていることです。
そうすると、なるべく見積もり提示に行く前の段階で、ラリーやレスポンスについての一定の感触をお客様との間で作っておくことや、「良い情報をくれるのだな」と思っていただけるようなポジションを作っておくことが提案に行く前の段階で必要だと言えます。
お客様に「具体的な打診」をしよう
とはいえ、忙しい中であまりお客様に対する事前のラリーや情報提供ができないままに提案に突入してしまうこともあります。そのときに、どうしたらいいのでしょうか。
この最後のひと押しとなったときにできることは限られてくるわけですが、その中で一番は、シャットアウトされる前の段階で「商談終盤の10カ条」を実践するということです。
ただし、それを実践しようとしても、なおシャットアウトされてしまう場合もなきにしもあらずです。そのような場合、どうしたらいいのでしょうか。
それは、「外れてもいいから具体的な打診をする」ということです。
いくつか例を挙げると、お客様に「何か必要な資料はありますか」とか「こういう情報があったら助かるというのはありますか」というオープンクエスチョンで質問をするとします。そうするとお客様としては、「いや、あったらいいですけど」とか「何かあればこちらからご連絡します」というふうに返しやすいです。それはなぜかというと、「何かあればリクエストすればいいか」という方がその場においては楽で安全だからです。
そうならないために、「具体的な打診をする」のが重要であるということです。「具体的な打診をする」とは何かというと、「例えば、こういう情報もあります」ということを出しておいて、「まだまだ追加の武器として良いものを持っているのだな」とお客様に思っていただくのです。そのために、お客様から言われていないけれど「これがあったら良いのではないでしょうか?」という打診をしてみるということです。
ここでのポイントは、「その場で見ていただくこと」です。「後で見よう」ということになると良い情報があったとしても見られずに終わってしまうということが起こるためです。
ページ数が多いと、お客様は「後で見るか」ということになります。しかし、例えば3枚とかであれば、「その場で見てみようか」ということになります。そのため、例えば追加の資料として送るのであれば、3枚ぐらいの重さでパッと見られるボリュームでまずはその場で送ってみる。その感触が良かったら、「この部分、もうちょっとこうなりませんか?」といったラリーが始まるということもあります。
あるいは、「送ってもらったのはちょっと違うんだけど、このクオリティでちゃんとフォローしてくれるなら、もうちょっと頼もうかな」と思ってもらえるような具体的な材料を示す。それは、3枚ぐらいの資料を送るだけでも十分達成できることです。
1日から2日の間でお客様とラリーをしよう
追加情報を送るときのポイントは「絶対に必要なとき以外は表紙をつけない」ということです。それはなぜかというと、お客様は「綺麗なストーリー」を期待しているわけではないからです。
お客様はもう少し断片的な情報単位で見ています。そのため、ピンとくるスライドがあればそれに引っ張られますし、そうでなければスルーされてしまいます。すると、普段から綺麗に提案やストーリーを整える必要はそれほどないのです。
普段から未完成な感じで資料を作って送り、「何かあれば追加で出せますよ」というふうにしておくということです。もちろんお客様にもいろんな方がいらっしゃいますから、「いやいや、そんな失礼なことしないでちゃんと正式にまとめてくれ」というお客様もいらっしゃいます。
数としてどのくらいかというと、9人のうち1人はそのようなタイプです。9人のうち8人はそうではないということです。そうすると、9人に8人の方には「通常」の対応しておいて、9人に1人の方は何となく気配でわかるところもあるでしょうから、そうなったらちゃんと整えて送る、とした方がトータルの勝率は上がります。
その際、あまり良い内容を考えすぎて時間が遅れてしまうと、元も子もないです。
そのため、ある程度のスピード感が重要です。お客様の時間感覚では「疑問や課題の解決は2日未満がありがたい」というラインがあります。つまり、1日か2日ぐらいでやりとりを回していくことが重要ということです。
追加の資料を送って、ちゃんと「一定の価値ある貢献をしている」という確信があれば、そこで電話をこちらからかけたり、携帯の番号がわかっているならショートメッセージを送るというのも1つの手段です。「こういう内容の資料をお送りしましたので、ぜひ見てください」というショートメッセージを送り、パソコンでメールを開いてもらうというやり方も良いでしょう。
クロージングに入る前の段階でちゃんと評価される「ラリー」と「追加情報の提供」ができていた方が、クロージングがやりやすいです。そうならないうちに終盤に来てしまったら、「こういう情報もあります」と早めに情報を送ることが重要です。そうすることで、営業の成功確率を高めることができます。