「難易度調整スキル」の重要性
業績を上げつつ、心理的安全性も高い営業チームでは「パフォーマンス」と「メンテナンス」のバランスが良い傾向があります。そのバランスを保つ鍵を握るのは、マネジャーの「難易度調整スキル」です。以下は、難易度調整スキルを構成する要素です。
難易度調整スキルを構成する要素
- ①目標の意味づけ
- ②目標の分解
- ③難易度ギャップへの感度
- ④チーム内の難易度調整
- ⑤段階的レベルアップ
- ⑥時間軸の設計
- ⑦選択肢の拡張
多くの営業組織では「高すぎる目標が達成できず疲弊してしまう」とメンバーが感じているときに、マネジャーが難易度調整をせずに「つべこべ言わず達成せよ」と言っていることがあります。チャレンジングな目標は成長の機会ともなりますが、「難しさ」は個人によって異なるため、難易度の調整が必要です。
①目標の意味づけ
難易度調整は単に目標を下げることではありません。目標の意味や背景が理解できていないと、心理的に難しさを感じるメンバーが出てきます。多くの人は、意味づけがあると目標に現実感を覚えやすくなります。
②目標の分解
目標だけを与えて、「あとの手段は自分で考えよ」で問題のないメンバーはそのまま自由に任せれば良いでしょう。ただ、目標をブレイクダウンして行動に落とし込まないと動けないメンバーもいます。そのような時は、目標を一緒にスモールステップへ分解することで「今日はこう動けばよいのか」ということがわかるようになります。
③難易度ギャップへの感度
多くの営業マネジャーは数字が伸びないメンバーに「意欲が足りない」「スキルが足りない」と評価しがちです。一方、そこで「難易度が高すぎるのかもしれない」と気づいて、難易度を調整することができるマネジャーもいます。本人の意欲やスキルは急には変わりませんが、難易度の調整はすぐにでもできます。
④チーム内の難易度調整
あるメンバーの難易度を下げた場合、短期的に他のメンバーがその分をカバーしなくてはいけないことがあります。そのような時はメンバーと個別にコミュニケーションを取り、他のメンバーに負担がかかり過ぎないようにケアしつつも、エース人材に「頼む、ここは踏ん張ってほしい」とお願いする場面が出てくる可能性があります。
⑤段階的レベルアップ
一方で「エース人材がチームの数字をカバーする」という状態を長続きさせるのは避けましょう。そのためにはメンバーがきちんと数字を伸ばせるように段階的に難易度を引き上げていくことが重要です。しっかりと数字が達成できるように「レベルアップの階段」を作り、状況に応じてタイムリーに運用しましょう。
⑥時間軸の設計
「今のメンバーでは目標が達成できない」と嘆く営業マネジャーもいます。一方で、「今月は難しくとも、来月、再来月と引き上げていき、四半期全体では目標を達成するプラン」を描けるマネジャーもいます。違いを分けるのは、時間軸に対するビジョンを持っているかどうかです。
⑦選択肢の拡張
「なんとかする力」が高い営業マネジャーは、制約条件に思考停止せずに「こういうこともできないだろうか?」と自分の頭で考えて選択肢を広げることができます。
- 他部署の協力を得る
- 同行のやり方を変える
- 商談活動のルールを変える
- 会社と交渉してリソースを獲得する
このように、目標を達成するための手段には様々なものがあります。
「その人に合った難易度」を設定する
営業には個人差があり、目標達成に対するこだわりの強さも異なります。一部の営業マネジャーは、目標達成意欲がないように見える人を見捨てがちです。しかし、本来人間は成長や進化を望むものなはずです。目標があれば、自然と達成したいと思うものです。
外から見て目標達成意欲が低いと映る人は、実は難易度が本人に合っていないのかもしれません。難しすぎる場合もあれば、簡単すぎる場合もあります。難しすぎると、目標が非現実的だと感じるかもしれません。一方で目標が簡単すぎると、そこそこの努力で達成できてしまいそうでやる気が湧かないかもしれません。
1on1での話し合いを通じて、「目標が達成しやす過ぎると感じている人がいる」とわかることがあります。このような場合、少し難易度の高い目標を設定することで達成への意欲が湧いてくるかもしれません。マネジャーはメンバーの特性を理解し、適切な難易度に調整する必要があります。
目標設定においては、単に数字を決めるだけでなく、適切な支援を提供することも重要です。しかし、過去に超人的な努力で成果を上げた人がマネジャーである場合、部下の苦労を理解しづらいことがあります。マネジメントでは自分を基準に相手を見るのではなく、冷静に難易度が適切かどうかを判断し、必要であれば支援を提供することが大切です。
目標達成意欲を上げるには「意味付け」が重要
目標が簡単すぎる場合は負荷をかけることが1つのアプローチですが、当社は目標に意味付けをすることが重要だと考えています。人は解釈をする生き物であり、目標に対する考え方によってモチベーションが変わります。例えば、個人の目標が容易に達成できる場合でも、チームの目標が達成できていなければ、その意味付けを通じてモチベーションを高めることができるかもしれません。
心理的安全性については営業組織ではしばしば誤解されがちです。本来の心理的安全性とは、発言や行動に対する影響を心配せずに振る舞えることを意味します。しかし、営業組織では「安心して働けること」や「心地よさ」を意味することが多いようです。マネジャーが心理的安全性について語る時は、常に目標達成とのバランスを考える必要があります。
営業組織において昇進してきたマネジャーはしばしば難しいハードルを乗り越えてきたため、無理難題に挑戦することに燃える性格を持っていることが多いです。しかし、現代ではハードワークを前面に出しにくい社会的傾向があり、様々な志向性を持つ人が声を上げやすくなっています。このような環境下では、個々人の心理的安全性を保ちながら目標達成を促す調整が重要となります。
当社も1on1での会話を通じてメンバーに適切な難易度調整をするように心がけています。これにより個人のチャレンジが適切なレベルに保たれ、チーム全体のバランスが取れるようにしています。このバランスの保持は心理的安全性を高め、目標達成へと導くキーであると改めて感じています。