今回は、お客様が選びやすい/選びにくい提案書について考えてみたいと思います。
選ぶ側の視点で提案書を見る
私が研修でよく実施するワークがあります。 最近の接戦案件の提案書を皆さんに持ってきていただいて、その提案書を受け取ったお客様の立場から「なぜこの企業に発注するのか」「なぜ他社を断るのか」あるいは「どうやって社内に説明するのか」といった文章を書いてもらうものです。 完全に買う側の視点で提案書を見てもらうということです。
すると、書けない人がいらっしゃいます。 というか書けない人が多数派です。 ほとんどの人は営業として「どう伝えるか」とか「どう喋るか」「何を訴求するか」という目線で提案書を書かれていて、お客様の目線から書かれている方はほとんどいません。 逆に言うと、だからこそ大チャンスなのです。 「お客様の目線でわかりやすい提案書」というのは、そんなに難しくないけれども多くの方が単純に見落としがちなポイントなんですね。
選ぶ側の視点を知る
書籍『無敗営業』と『無敗営業 チーム戦略』では提案書に関するいくつかのグラフを載せています。
下にグラフを再掲してコメントしていきます。
提案に対するお客様の不満
まず一つ目は「提案ロジックに対するお客様の不満トップ3」。
「あなたが『意図に沿わない提案を出してくる』と感じた営業担当者に、あてはまるものを選んでください。(いくつでも)」という問いに対する回答です。
トップが61.7%、2番目が56.5%、3番目が47.8%ということで、大きな割合で「納得感がない」「理解してくれていない」というものが挙がりました。 上位3項目がかなり突出していると言っていいでしょう。 多くの営業の方が気づかないうちに提案書の書き方で地雷を踏んでしまっているということです。
やや話はそれますが、おもしろいなと思ったのは「提案内容の情報量が少なすぎた」という不満が21.7%、「多すぎた」が6.1%になっている点です。 世の中のセオリーとしては「資料の情報量が多すぎるとわからない」と言われますが、情報が少なすぎるという不満の方が3倍程度あるということです。 多ければいいというものではないのですが、このお客様の不満点を見ると、提案書の書き方にいろんな視座が出てきますね。
提案書についてお客様が重視すること
そして次の2つのグラフは『無敗営業 チーム戦略』の第3章から。
書籍の中ではグラフを統合しているのですが、ここではバラしてあります。
まず「現場の議論段階において購買担当が重要視する項目はなんですか?」という質問。 重要なものから順番に1から3まで選んでもらい、結果はスコアでまとめています。 結果のトップ3は以下のようになりました。
①当社の要望や悩み・課題を的確に整理してくれている(412)
②当初の要望や悩み・課題に対して、提案がどうマッチしているかの納得感が高い(327)
③採用したときの費用対効果がわかりやすい(287)
資料のデザインとか見栄えも大事なのですが、デザインに関するものは34ポイントで10倍程度の差があります。
過去にある案件で、お客様の側に立って数社から提案をもらって選ぶのをサポートしたことがあるのですが、結果的に昔ながらの表現をしている提案書が選ばれていました。 他社はスタイリッシュなデザインで今っぽくきれいな提案書だったのですが、そこで「デザインは関係ないんだな」とリアルに感じた覚えがあります。
現場の段階では「要望や悩みの整理」の部分が圧倒的にスコアが高い。商品・サービスの特徴とか差別化ポイントがわかりやすいという点の倍以上のポイントです。 自社の特徴ばかりアピールしてもあまり響かない、要は「翻訳力」がすごく大事ということです。
決済段階ではお金の重要度が上がる
そして注目は「他社に比べて金額がとにかく安い」という項目。 現場の議論だと85ポイントだったところが、決済段階になると210ポイントと3倍近くまで急上昇してきます。
トップ3の顔ぶれは変わらないのですが、「悩みや課題の的確な整理」は3位に落ち、1位に来るのは「提案を採用したときの費用対効果」になります。 要はお金の話が上がってくるのです。
ただし「とにかく安い」ことよりも費用対効果の方が大事です。 これは今までにいろんな場で何度もお伝えしてきました。 多くの営業の方は絶対的な金額とか価格の水準に目が行きがちですが、相対感への納得度を高めていくことがとにかく大事なポイントなのです。
ここまでの話をまとめると、選びやすい提案書というのは、まず「費用対効果」「マッチの納得感」「悩みや課題の的確な整理」という上位3項目をしっかり押さえられているものです。
現場をくぐり抜けるときには「悩み・課題の整理」のポイントが高くなりますが、当然ながら決済段階に来るとお金のウエイトが上がってきます。 ただしお金に関しては、金額よりも費用対効果の納得感が特に重要になってきます。
そして「商品やサービスの特徴」とか「他社との差別化ポイント」は、現場の議論段階でも決裁者の段階でも上位トップ3には入らないということも重要です。 自社の強みだけをアピールしてもお客様には響きません。
何より多くの営業の方は普段「お客様の目線から選ぶことに関して考える」ということをしていないので、最初に紹介したワークなどを研修やイベントの場でやってみるといいかもしれません。