「関係構築」よりも重要なこと
お客様のニーズや予算などデリケートな質問ができない営業に対して、「お客様との関係ができていないから教えてもらえないのだ。だから、まずは関係構築が必要だ」と指導する上司がいます。しかし、この指導方法では、結果的に「質問することを恐れる営業」を生み出してしまう可能性があります。そのため、まずは適切な質問の仕方を指導する方が望ましいです。

成果を上げている営業は「質問することはお客様のためになる」という考え方を持っています。なぜなら、お客様を深く理解することで、より良い提案ができるからです。適切な質問をし、お客様のニーズに合った提案をすれば、お客様からの反応も好意的なものとなります。その結果、「質問して良かった」という実感が得られ、さらに積極的に質問するようになります。
一方、成果が上がっていない営業は「質問することはお客様の迷惑になる」と考えがちです。ニーズや予算について聞いてはぐらかされると、「自分は不適切なことをしてしまった」と解釈してしまいます。成功体験の少ない営業は「質問をすることは失礼ではないか」という懸念がすぐに頭に浮かび、様々な理由をつけて質問を避けてしまう傾向があります。
必要な質問をしないままでは、的外れな提案になってしまいます。お客様からすれば「この営業は自社のことを理解していない」と感じ、冷ややかな反応を示すことになります。このような状況で「お客様との関係ができていないから情報を教えてもらえないのだ。まずは関係構築から始めなさい」とアドバイスされた場合、どうなるでしょうか。
「関係構築ができていなければ情報を得られない」と教わった営業は、関係の浅いお客様への質問を避け、「関係が築けてから質問しよう」という考えに傾きます。その結果、的外れな提案を繰り返すことになり、皮肉なことにお客様との関係構築はさらに困難になっていきます。そして、お客様への質問自体に恐怖を感じるようになってしまう、という悪循環に陥ります。
お客様が質問をはぐらかす主な理由は「関係ができていない」からではありません。多くの場合、それほど重要でない理由によるものです。確かに、関係構築が不十分であることも一因となり得ますが、それは副次的な要因に過ぎません。上司の役割は「関係構築がなければ情報は得られない」という誤った認識を与えることではなく、「適切な質問技術を身につければ、必要な情報を得ることができる」という真実を伝えることです。
デリケートな質問ができない営業に対するアドバイスは以下の通りです。
- 情報を得られない理由は、関係性の問題ではなく、質問技術の問題である
- お客様との関係構築は、営業プロセスの入り口というよりも、常に重要な要素である
「関係構築ができていないことが原因である」という因果関係を植え付けてしまうと、質問することを過度に恐れる営業を生み出してしまうことになります。
「関係構築の問題」で片付けるのをやめよう
関係構築はもちろん重要です。お客様としっかりと関係構築することによって良い提案ができたり、お客様の成功確率が上がったりするので、それ自体は全く否定するものではありません。
しかし、問題なのは営業プロセスのどこかで行き詰まったときに「それは関係構築の問題だよね」と全てを片付けてしまうことです。
例えば、予算や今後に関する情報を教えてもらえなかった場合、「お客様とまだ関係構築ができていないのだと思うよ。もっとお客様と関係を構築したら聞けるんじゃないかな」というアドバイスは全く間違っていません。
クロージングをしたところ、「競合が提案できているらしい」という情報を突っ込んで聞こうとしたけれども教えてもらえなかったとします。その場合、「関係がもうちょっとしっかりできたら今後のことを教えてもらえるかもね」とアドバイスをしたとしたら、それも間違っていません。
全て「関係構築ができていません」というふうに言ってしまえば、上司は非常に楽です。
しかし、全てをこのように関係構築の問題として片付ける指導によってメンバーの営業プロセスは前進しているでしょうか。そして、スキルは上がっているでしょうか。お客様への提供価値は上がっているでしょうか。
何でもかんでも関係構築で片付けることの一番のデメリットは、マネジャーもメンバーも思考停止してしまい、営業組織から創意工夫や改善といったものがだんだん失われていってしまうということです。これが一番のリスクなのです。
「関係構築の呪縛」に陥らないようにしよう
これを弊社代表の高橋は「関係構築の呪縛」と呼んでいます。なまじ「関係構築しなさい」というアドバイスは間違っていないので、上司としてはとりあえずそう返しておけば、何か仕事をした気になって終わりやすいのです。
そしてメンバーの側も「そうか、関係構築なんだ」というふうに思ってしまいますから、何かわかった気になってその場が終わってしまうのです。しかし、その後どうなるでしょうか。関係構築できない案件の優先順位がどんどん下がっていって滞留してしまう、というのが多くの場合の帰結となりがちではないでしょうか。
予算や検討状況のようなものは、はっきり言って大したことのない理由ではぐらかされているということが多いです。弊社が実施した「お客様1万人調査」の結果、約8割は「なんとなく」の理由ではぐらかされているのです。もちろん、営業に対して不満を持っているとか、絶対に教えたくないというケースもあるかもしれませんが、それはかなりの少数派です。
質問の仕方をちゃんと工夫すれば聞き出せるのですが、それを関係構築の問題だというふうに一言で片付けてしまうことによって、創意工夫をしなくなってしまうのは非常にもったいないことです。
このようなことをお伝えすると「お客様との関係構築を軽視しすぎていませんか」と言われることがありますが、もちろんそうではありません。お客様との関係構築それ自体は大事です。一番気をつけなければいけないのは、営業がうまくいかないときの原因やボトルネックを全て「関係構築」という言葉で済ませることによって思考停止することです。これが一番まずいことであり、関係構築自体は非常に重要です。
「正しいけれど具体的でない指導」をやめよう
社内の指導やアドバイスのときに、一見すると全く間違っていないのだけれども、具体的でないアドバイスというのは本当に気をつける必要があります。
例えば他にも「たくさん行動すれば結果が出るよ」というアドバイスがあります。これも間違っていません。「大量行動がいつしか質に転化して結果が出る」というのも間違っていません。ただし、問題なのは「どういうふうに質に変わるのか」ということについて全く理解しないまま大量行動しても、多くの場合は単調な繰り返しによって時間が浪費されてしまうだけになることです。
それでも「いつか結果が出るのだからいいじゃないか」と思うかもしれませんが、特に昨今では働く時間についてもかなり制約がかかっている中で営業マネジャーはマネジメントをしなくてはいけません。また、実際に行動する方の心の問題もあります。大量行動をするだけだとやはりだんだんと心がすり減ってしまって、営業嫌いになってしまうようなこともよくお聞きする話です。
特にここ数年で営業組織における若手の退職の問題とエンゲージメントの低下については極めて多くの相談をいただいておりますが、やはりその原因の1つが上司の「一見すると正しいのだけれども具体的な前進がないような指導」が当たり前になってしまっていることです。これは少なからぬ割合を占めています。
弊社が実施した「営業1万人調査」で役職ごとの比較分析というものをしたのですが、そこで出てきた意外な結果の1つに「営業マネジャーで自分の営業スキルに自信がない」という方が約半分を占めていたというものがあります。営業マネジャーの2人に1人は商談で難しい局面に遭遇したら自分自身で対応できる自信がないのです。
その人たちがメンバーを指導しているという現実を考えるとどうでしょうか。確かに「関係構築しよう」「たくさん行動しよう」というアドバイスは、言ってみればマネジャーがどんな人であっても言うだけなら言えます。しかし、営業マネジャーが自分のスキルに自信がないという状態であれば、やはり具体的にどうしたらいいのかということに関しては抽象的な指導で終わってしまうことが多いはずです。
カギとなるのは「営業マネジャーのスキル」
では、営業組織としてはどこに手を当てたらいいかということですが、これは端的に「営業マネジャーの商談スキル」ということになります。営業マネジャーの商談スキルを上げることの優先順位を上げられないと、残念ながら現場における抽象的な指導はなかなか消えません。
ただ、多くの営業組織では営業マネジャーに対しては腫れ物に触るような感じでいます。仮にパフォーマンスがあまり上がっていなくても介入できないのです。営業マネジャーからすれば「こちらは数字を背負って頑張っているのだ。そんなに文句があるなら代わりにやってみろ」という一言で終わってしまうわけです。
そのため営業マネジャーの方々は、仮にあまり自信がなくても外からの介入はほとんどないということになります。これを少し話を発展させると、「SFAを入れましたがうまくいきません」という会社も実は似たようなことが起きています。
多くの営業マネジャーが実はSFAの使い方が全然わからない状況にありますが、そこに対して具体的な手が打たれているケースはほとんどありません。実際、SFAを入れただけで上手く使えていないという企業で営業マネジャーの方にブックマークを見せていただくと、大体ほとんどの方は売上の集計のページだけを見るようになっていて、それ以外はほとんど見ていないのです。なぜ見ないかというと、見方がわからないからです。
見方がわからなければ当然、なぜこのデータが必要なのかということもマネジャーが理解していないということになります。そうするとメンバーがだんだん情報を入力しなくなっていきます。すると、情報がスカスカになってしまったSFAは「高いお金を払って導入したけれども結局は使わない」ということになってしまうのです。
これも先ほどのデリケートな情報が聞けないということと一緒で、営業マネジャーの方に本当はもっと具体的な介入や指導が必要なのですが、役職のある営業マネジャーに対して介入することができないというのが多くの会社の苦しい実情でもあります。
根っこのところにあるのは営業マネジャーのレベルアップです。営業マネジャーのレベルアップが、強い営業組織を作ることに繋がります。





