「仕事の分解力」で強い営業組織を作ろう
営業マネジャーの必須スキルなのに見落とされがちなものの筆頭は「仕事の分解力」です。多くの営業マネジャーは、メンバーの今の実力では到底難しいことを「私にもできたんだ。君にもできる。自分なりにやってみなさい」と精神論で突き放しがちです。しかし、そうするとメンバーの心が折れてしまうことがあります。そうなる前に、対処が必要です。

多くの営業組織では「壁を乗り越え続けた超人」がトップに上り詰めます。超人は差別化された商材でなくとも、戦略がなくとも、教わらなくとも売ってしまいます。結果が出ない時期も乗り越えます。一方、この超人を基準に置いてしまうのは危険です。「やればできる」で全てのコミュニケーションが済んでしまいます。

藤井聡太氏はどうやって将棋が強くなったかというと、入り口は「ルールも覚束ないおばあちゃん相手に勝つ楽しさを体感する」ところからスタートしました。その後は、自分より少し強い相手、「頑張れば勝てるかもしれない」相手と戦うことによって実力を伸ばしました。入り口のハードルは低くし、その後は接戦の経験回数が重要です。

ジョン・ウィリアム・アトキンソンによる「達成動機」の実験では、子供たちのやる気が最も高まったのは「成功する見込みが50%(=2回やれば1回成功する)のチャレンジ」でした。難しすぎても簡単すぎてもダメです。営業マネジャーが「メンバーにとっての難易度」を常に意識することで、成長スピードは上がります。

また、「接戦での強さ」を組織で引き上げていくことが重要です。難しすぎることだけやっていると、そのうち心が折れてしまいます。逆に、あまりにも楽なことだけやっている(=支援が過剰)と、筋力が落ちるがごとく、営業組織の力は弱まっていきます。このさじ加減を見極めながら、難易度をコントロールすることが大切です。

マネジャーに求められるのは「仕組み化」と「育成」
営業の世界では「属人化」ということがよく言われます。ある人にとってはできることが他の人にはできない、端的に言うと「売れる人は売れるけれど、売れない人は売れない」ということがよく言われます。
そのようなとき、マネジャーがやらなくてはいけないことは「仕組み化」と「育成」です。しかし、それが苦手であるというマネジャーは多いです。
マネジャーは「売れているからマネジャーに昇進した」という場合が多いです。もちろんそうでないこともありますが、多くの場合は元々プレーヤーとして高いパフォーマンスを上げていた人がマネジャーになるわけです。
そうなると、パフォーマンスが上がらないメンバーを見て「なんでこれができないんだろう」と思えるわけです。「なんでこれができないんだろう」という心の裏側には、「自分はできた」という心があります。
その「自分はできた」ということに紐づくのは、多くの場合、努力です。「自分は頑張って、こういうことをやったんだ」ということがあるのです。例えば、商談でなかなか成果が出ないメンバーがいると、「なんでちゃんと商談の前に準備していかないんだ。自分がプレーヤーだった頃は、商談の前にきちんとゴールを設定したり、社内を巻き込んだり、苦労しながら努力していたのだ」と思うわけです。「なぜ君はやらないんだ」と。
「努力の正当化」を避けよう
このように、なかなか成果が上がらないメンバーを見たときに、マネジャーは「やればいいことを、なぜやらないんだ」と思いがちです。事実、メンバーが「やるべきことをやっていない」ということももちろんあるでしょう。ただ、その「やればいいことを、なぜやらないんだ」という思いをもう少し細かく見ていくと、「過去の努力を正当化する」という側面も少なからずある場合が多いです。
そうすると、「成果が出ないメンバーに対して、マネジャーが手を差し伸べて支援をする」ということが「自分の過去の努力を否定することになる」と思えるのです。「自分が過去にすごく努力をして、うまくいった」という事実があると、「自分の注いだ努力もなしに成果を上げる人が生まれてしまったら、過去の自分の努力が否定されてしまう」と感じられるのです。
もちろん、実際には否定されるわけではありません。しかし、人の潜在的な心理として、「自分はこんなに苦労して成果を上げたのに、目の前のメンバーが苦労せずに成果を上げてしまったら、あれだけ苦労した自分は何だったんだ」という気持ちになってしまうということです。平たく言うと、「自分がした苦労を相手にもさせないと、割に合わない」という心が働いているということです。
それによって結果的にそのマネジャーはメンバーに対して「努力するべきだ」ということを突きつけることになります。それが「間違ったこと」というわけではありませんが、すごく注意が必要なことではあります。
マネジャーの「自己認識」が組織に影響する
マネジャーが過去の自分を美化しすぎていることがあるのです。しかし、そのマネジャーが誰の助けも借りずにうまくいったのかというと、おそらくそうではありません。色々な人に助けてもらったはずです。本当に自分の努力・実力が100%なのかというと、そうではなく、運の要素や、恵まれていた要素があったはずです。自分が頑張って本当にすぐに成果が出ていたのかというとそうではなく、成果が出るまでには長い時間がかかっていたかもしれません。
そうすると、例えば「自分は3年かかって、ようやく売れるようになった」という場合、1年頑張ってうまくいかないメンバーがいたときに、考えようによっては「ただ、結果が出るまでの途上にいるんだ」という見方もできるわけです。しかし、それが「自分は頑張ってうまくいった」ということを正当化しようとすると、「目の前のメンバーは努力が足りないからうまくいかないんだ」と思ってしまいやすい、ということです。
そのような心理は一度自分で認識すると、ある程度冷静でいることができるようになります。一度それを認識したら、あとは単純に目の前のメンバーがうまくいくように手助けをすればいいわけです。なぜかというと、それがマネジャーとしての仕事だからです。
重要なのは「現在進行形」で生きること
注意する必要があるのは、「過去の努力を正当化し、目の前のメンバーに努力を強いて、本来マネジャーがやるべき仕事をやらない」ということです。言ってみればこれは「過去に生きている」ということです。「今マネジャーとして自分がやるべきことをやらずに、かつてプレーヤーだった時代の自分の努力を1つの基準にして、メンバーに努力を強いている」わけです。
マネジャーがちゃんとメンバーに対する指導やマネジメントをするためには、過去に生きるのではなく、マネジャー自身が「現在進行形」で生きるということが非常に重要です。
「現在進行形」で考えたら、メンバーの指導や支援というのは、マネジャーとして絶対にやらなくてはいけないタスクです。それをやらずして「努力で何とかしろ」と言っているのは、言ってみれば仕事を放棄しているようなものです。
ただし、やはり営業組織ではなんらかの努力をして成果を上げた人が上に上がっていくというシステムであるため、そのようなことは構造的に起こりやすいものでもあります。だからこそ、マネジャーは目の前のメンバーの成果が出ないときに「努力が足りないんだ」と思いやすいということに注意する必要があるということです。
マネジャーは「仕事の分解力」を身につけよう
「現在進行形」で考えたときにマネジャーに必要な力が「仕事の分解力」です。これはお客様を相手にした商談とは使う「筋肉」が少し違います。厳密に言うと、「応用」を利かせる必要があります。
「お客様からご契約をいただく」ということは、「そこに至るまでの道筋を作る」ということとほぼイコールのはずです。最初は関係構築もできていない状態からスタートして、お客様と関係を築き、課題を聞かせていただいて、それに対してできることを議論し、提案に落とし込み、社内の合意が取れるように支援する、というふうに、マネジャーもかつてはお客様に対してそのようなステップを踏んできました。それを今度は目の前のメンバーに対してやるのです。「メンバーが行き詰まったときに、同じようにそのステップを作っていく」ということです。
ただし、「自分で成果を上げる」ということと「他人に成果を上げてもらう」ということには全く違った難しさがあります。他人の行動は、究極的には自分でコントロールすることはできません。もちろん指示をすることはできますが、その人に成り代わって、その人の代わりに手を動かせるかというと動かせないわけです。結局、そこには相手の意思というものが絡むわけです。
重要なのは「人に成果を上げてもらうスキル」
「他人に動いてもらう」ということがうまくできないと、仕組みや育成というものは機能しません。マネジャーはお客様に対して動いてもらう努力はできるけれども、メンバーに対して動いてもらうための努力となると「何で自分がこんなことをしなくてはいけないんだ」という心が働いてしまうことがあります。そのとき、「過去に生きる」というマインドセットになってしまっているということです。それに気づくことが重要です。
「自分は努力をしてここまで来れたのに、メンバーは努力が足りないんじゃないか」と思ってしまうのです。しかし、それは「プレーヤー」という尺度で見たら確かにそういう側面もあるかもしれませんが、今現在マネジャーが「現在進行形」で向き合うべき仕事ということで考えたら、メンバーを支援するということがマネジャーが今まさにやらなくてはいけない仕事であるということです。
「自分で成果を上げる」ということと「人に成果を上げてもらう」ということでは求められるスキルが異なります。マネジャーは「人に成果を上げてもらう」ためのスキルを上げることで、強い営業組織を作るようにしましょう。





