エンタープライズ営業で求められるのは「覚悟」
エンタープライズで売れる営業は、お客様から「御社の提案に私のビジネス人生を預けても大丈夫ですか?」と聞かれても「大丈夫です」と言えます。これは小手先の技術ではなく「覚悟」の問題です。スタートアップの若手営業が大企業相手に苦戦するのは、この感覚がわからないことが根っこにあります。
大企業がスタートアップに大きな案件を発注するのは、購買担当者側からすれば「ビジネス人生を賭ける」こととイコールに近いです。大企業に勤める人がプロジェクトをコケさせて「X」がつくと、ビジネス人生で深刻なダメージを負いかねません。営業としてはそこまで想像しないと、大企業から相手にされません。
大企業の購買担当者が「ビジネス人生で深刻なダメージを負う可能性」についてです。これはスタートアップの人にはわかりづらい感覚ですが、「数百人いる同期の中で、昇進や昇格がちょっとだけ遅れるかもしれない材料が生まれる」だけで十分大きいリスクになります。「かもしれない」のレベルで死活問題になるのです。
大企業における役職の「重み」を理解しよう
大企業の役職者は、例えば社内資料上で「部長→B」「課長→K」「課長代理→KD」などと略されますが、最近昇進されたばかりの「山田課長→山田K」を、昇進前の「山田KD」でうっかり書いた議事録をお客様の担当者に送ったら、まず間違いなく、血相を変えてすぐに連絡がきます。この感覚がわかるかどうかです。
大企業の「昇進」はとても重たいことで、長い間何かに耐え続けながら、ようやく昇進試験を受けられるようになって、昇進試験に合格し、そこで手に入るのが「役職」です。その重みを理解する必要があります。
大企業出身者でなくとも、エンタープライズ営業で売れるようになることはできます。ただ、そのためには、お客様の「ビジネス人生」を預かり、尋常ならざる期待とプレッシャーを受けながら、責任を果たし、お客様に気持ちよく昇進していただくということを1件1件やり遂げていかなければなりません。
カギを握るのは「営業の想像力」
「エンタープライズ営業」で一番難しく感じることの筆頭というのはお客様にある「リスク感覚」です。リスク感覚というのは、営業側からすると「そんなところを気にするんですか?」というレベルのことを、ものすごく注意深く検討を進められたり、あるいは商談中に突っ込んでこられたりします。
その際に重要な感覚は、「何かあったときの影響範囲」です。これは一度大手の会社に勤めると「なるほど、こういうことか」と五感で感じることはあるかもしれませんが、その経験がないとなかなかイメージがつきにくいです。
ただ、これを単純に企業規模の問題として考えていくと「わからないものはしょうがない」ということになって話が終わってしまいます。そこで重要なのが「営業の想像力」です。
お客様がどういうお客様であろうとも求められる営業の想像力というものが、エンタープライズ営業においてはとりわけ強く要求されるのです。
「見えてない範囲のこと」を推し図ろう
営業の想像力というのは、端的に言うと「自分に見えていないところで起こっていることをどれだけ想像することができるか」ということです。
例えば、お客様が大手の企業だと、まず関係者の数がすごく増えます。企業の規模が大きくなると、自分に見えていない様々な部署や人物が出てくるのです。
営業の想像力というのは「自分には見えていないけれど、多分こういうことがあるのだろうな」ということをどのくらい推し図れるかということです。今の自分には見えていない、例えば会ったことのない人物や見たことのない部署などがあったとして、「そこでこんなことが言われているのだろうな」とか、「こういうことが起こっているのだろうな」ということを想像し、そしてそれに対して対処する、ということになります。
「健全な悲観主義」が成果に繋がる
このときにいわゆる楽観主義で仕事をする人と悲観主義で仕事をする人とがいたとき、楽観主義の人は「多分大丈夫だろう」と考え、悲観主義の人は「もしかしたら駄目なんじゃないか」と考えます。もちろん仕事をする上で一般的に全面的なネガティブ思考は良くないかもしれませんが、ある種の健全な悲観主義というのは持っておいた方が良いです。
どういうことかというと、例えば「この人がこういうことを突っ込んでくるのではないか」とか、「ここで何か横槍が入るのではないか」というようなことを思い浮かべて、それに対して手を打つ、ということです。「石橋をたたいて渡る」という言葉がありますが、その「石橋」のようなことがあったとすると、「一応ここをチェックしておいた方がいいのではないか」ということにどれだけ細かく気がつけるかということです。
そうなったときに、「いちいち細かいことを気にすると切りがない」という感覚を持たれる方がいらっしゃいます。例えば、「メールを1通送るのにも、いちいち気を使わなくてはいけないと考えると、手が止まってしまう」というようなことです。
「営業の想像力」を鍛えよう
では、どうやったら想像力を鍛えられるのでしょうか。
1つ目は、仕事のミーティング以外の場所で、大手企業の人との接点を作ることです。例えば、今であれば勉強会やセミナー、ワークショップなどで自由に参加することができるものがあります。そのような場に参加をすると、そこに大手企業から参加されている方がいらっしゃることがあります。そうすると、自分も一参加者であれば、プライベートで仲良くなることもあります。それでちょっとした仕事の話もするうちに文化の違いを実感できるかもしれません。
2つ目は、仕事上のお付き合いで大手企業の方がいらっしゃる場合、会食がおすすめです。もちろん会食というのはしなければいけないものではありませんが、相手の背景を知る良い機会になります。
3つ目は、アプローチ先の大手企業があった場合、その中で特定の1社をものすごく深掘りするというアプローチです。
重要なのは「1社の理解を深めること」
エンタープライズ営業というと相手方の組織が非常に広範囲に渡り、様々な人たちが関係してきます。そこに価値提供をしようとすると時間と労力が求められます。そういうときに、例えばアプローチ先が10社あったらその10社に対して費やすエネルギーが仮に均等だとすると、どうしても時間の限界が来てしまいます。
しかし、例えば10社のうち1社に対してものすごくリソースを注ぎ込むのであれば、話は違います。相手の組織が大きいと、会うべき人物は多くいらっしゃいます。多くの人とお会いしているうちに、いつの間にか手元には名刺が10枚、20枚と貯まっていくのです。
そうすると、その1社についての理解は非常に深まります。その特定の1社についての理解が深まると、残りの9社に対してもアプローチの精度が上がります。それは、構造が似ているところがあるからです。
「1社の深掘り」で想像力が身につく
弊社は毎年この深掘りの対象とするお客様を何社か決めています。そして、そのお客様にはかなり突っ込んでお手伝いをします。それによって会社として得られる知見がすごく深まっていきますし、結果的にその注ぎ込んだリソースがお客様に対する大きなリターンとなって返ってきます。お客様に大きなリターンを返すことができれば、結果としてお取引も上手く続いていくという流れになっていきます。
もちろん、全てのお客様に対してベストなサービスや努力をするというのは大前提です。これは欠かせない大前提なのですが、ただその中でも意識をして「この企業は特に深掘りする」とあらかじめ決めておくということが重要です。
この3つをやっていくと、いわゆる営業の想像力が非常に鍛えられます。
エンタープライズ営業の難所というのは、考えなければいけない関係者の数や、非常に緻密なリスク対策にあります。体験として自分が知らない世界というのは、なかなか目が行き届きにくいです。そういう意味で、営業としての視野を広げるために、今回の内容を活かしていきましょう。





