費用対効果に関する質問をされた時の対処法
営業をしていると、お客様から次のように聞かれることがあります。
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お客様
サービス導入時の費用対効果について、参考になる情報はありますか?
その際、この質問に正面からいきなり答えると失注が増えてしまいます。
そこで聞くべきは「個人的に導入したいと思っているかどうか」です。お客様から上記のような質問をされたら、次のように聞いてみましょう。
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営業パーソン
ご質問ありがとうございます。資料がいくつかあるので、念のため伺いたいのですが、◯◯様は個人的には導入のご検討についてどのようにお考えでしょうか?
それに対するお客様の回答は大きく3つのパターンに分けることができます。
①やりたくて決める立場にもあるが、念のため確認したい
この場合はすでに導入への意思があるため、細かい費用対効果の説明は逆効果になる可能性があります。そこで、次のように質問し、導入を検討される理由を深掘りしましょう。
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営業パーソン
今、「導入したい」とおっしゃっていただきましたが、もう少し詳しくお話を伺ってもよろしいでしょうか?
「なぜやりたいと思ったのか」を深掘りすることでお客様の真のニーズが明確になります。そうすると、お客様が何を確かめたいのかが明らかになるので、筋の良い答えを返すことができるでしょう。時には、深掘りをしているだけで受注してしまうこともあります。
②やりたいが決める立場にないので、社内を説得したい
この場合、他社事例を出してもお客様から次のように返ってくることがあります。
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お客様
確かにその事例ではうまくいったかもしれませんが、当社は特殊なので…
このように、お客様から「当社は特殊なので…」という返答をいただいた場合、他の事例を出しても響かないことが多いです。
そこで、以下の2点を確認するようにしましょう。
- 過去の社内稟議で通らなかったケースとその共通点
- 過去の社内稟議で通ったケースとその共通点
お客様にはこの2つのことが頭にあり、稟議を通す難しさが気になっています。まずはそれを把握しましょう。
上記2点について聞いたら、次の2つのメッセージを伝えます。
- 当社の提案は、過去の社内稟議で通ったケースに近いこと
- 過去の社内稟議で通らなかったケースから連想される懸念点を心配する必要はないこと
これら2つのメッセージに賛同いただいてから、お客様と一緒に資料の内容を検討するようにしましょう。
③やりたいとは思っておらず、とりあえず聞いただけ
この場合、正面から費用対効果を熱心に説明しても、お客様は真剣に聞いていないことがあります。これは「不信・不要・不急」という3つの壁を突破できていない状態です。
そのような場合は一歩引いて、次のように聞きましょう。
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営業パーソン
当社のサービスの話は一旦置いておいて、お客様が現在気にされている課題は何でしょうか?
サービスを導入する必要性を感じていないお客様に対して説得や論破を試みても逆効果です。そこでまずは、お客様の頭の中にある課題を徹底的に深掘りします。それでも自社のサービスとの接点が見出せなければ撤退しましょう。
ただし、深掘りをすることで根本的な課題が明らかになり、それに対して自社のサービスでお役に立てるケースもあります。
そのような場合、次のように説明の方向性を適切に修正することで、案件を復活させることができる可能性があります。
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営業パーソン
先ほどは私の説明が不十分で誤解を与えてしまったかもしれません。実は当社のサービスでは…
前提として、お客様に商品やサービスをご購入いただいたからには費用対効果を出すことは非常に重要ですし、それはきちんとお客様に伝えるべきです。
しかし、「品定めモードのお客様にそのまま答えようとする」よりも、「お客様と共創関係ができた状態で、費用対効果を実現するための議論をする」方が、結果的にうまくいく確率が高いです。
費用対効果を上げるカギは「お客様自身」にある
お客様が思い切って何かを購入することを決めるには、相当な勇気が必要です。
お客様としては当然、せっかくお金を使うからには費用対効果を上げたいと考えます。だからこそ、お客様から費用対効果についての質問をされるのです。
ある人が「モテたい」と思って、今まで通っていた美容院から料金が1.5倍ぐらい高い美容院に行くことを決めたとします。
そのとき、「元を取りたい」という気持ちが働きます。そこで、お客様が「この美容院でカットしてもらうと、モテるようになりますか?」と聞くとします。これも費用対効果に関する質問と言えます。
しかし、費用対効果を上げるには、お客様自身の努力が非常に重要です。もちろん、営業側としても最大限努力することは大前提ですが、本当にそれが実現できるかどうかはお客様自身の取り組み次第なのです。
「お金さえ払えば営業側が全て対応してくれる」というのは、全てを丸投げできることを売りにしているサービスを除けばありません。
例えば先ほどの例で、「この美容院でカットしてもらうと、モテるようになりますか?」というお客様からの質問に、美容院のスタイリストが「大丈夫です、お任せください。当店で切っていただければ、必ずモテるようになりますよ」と答えたとしたら、どうでしょうか。多くの人は少し疑わしく感じるはずです。
あるいは、「当店にいらっしゃるお客様のうち、10人中8人はモテるようになりました。これが当店の実績です」と言われても、たとえそれが事実だとしても、何か釈然としない思いが残るのではないでしょうか。
最終的にお客様の目的である「モテるようになりたい」という願望が実現するかどうかは、お客様次第です。しかし、料金をいただく立場としてその目的に最大限応えたいと思うのであれば、「大丈夫です、当店で切ったらモテるようになりますよ」とか「当店では10人中8人のお客様がモテるようになりました」というような回答をするよりも、まずお客様に「モテるとは、具体的にどういう状態を目指しているのか」を聞くことが重要です。
例えば、「もう既に十分モテそうに見えますが、何か悩みがあるのですか?」と聞いたら、お客様から「異性との出会いはあるのですが、本当に理想の人との出会いがないんです」「実は今の職場ではそういった出会いの機会が少なくて…」といった本音が聞けるかもしれません。
そういった会話を通じてお客様を理解しながら、お客様の服装などにも目を配った上で、お客様の目的を実現するためにその方の雰囲気や服装、あるいは仕事などの生活環境に合わせて髪型を提案します。
今述べたようなことは、もちろんスタイリストとしての仕事です。しかし、お客様が「モテるようになりたい」という目的を持って美容院に来店されて高いお金を払ったとしても、最終的にその費用対効果を実現するカギを握っているのはやはりお客様自身です。
それに対して軽々しく「大丈夫です、当店でカットしていただければ、必ず費用対効果が上がりますよ」などと答えてしまうと、お客様に信用されません。本当に費用対効果を上げるには、お客様自身の姿勢や行動が決定的に重要だからです。
根本は「お客様のことを理解すること」
それを営業の話に戻すと、費用対効果に懐疑的なお客様がいらっしゃった時に、「本当にあなたの言う通り、費用対効果が上がるのですか?」と問われて「はい、大丈夫ですよ」という「浅い」回答をするよりも、まずはしっかりとお客様のことを理解することが重要です。
お客様がどういう状況で、どういう思いで今ここにいらっしゃるのかをきちんと把握し、その上でお客様にとっての費用対効果を実現しようとする行動を示すのです。そういったプロセスがあれば、お客様は安心してお金を払うかどうかの判断をすることができます。もしそこで安心してお金を払うかどうかの判断をしていただけないのであれば、それまでのプロセスや営業の示した姿勢や行動に問題があると考えられます。
それをすべて省いて、「このお客様でこういう事例があります」という一言や、机上のフェルミ推定で「案件の受注がこれだけ増えれば、これだけのリターンがあります」ということを言って終わりにするのであれば、お客様は費用対効果について安心することはできません。
もちろん大前提として、せっかくお金を払っていただいたからにはその費用に見合う効果を実現するのは言うまでもありません。具体的にどのくらいのインパクトを生み出せるのかという数値的な計算も、もちろん重要です。
しかし、「それを信じるかどうか」は最終的にはお客様が判断されることです。だからこそ、テクニカルな費用対効果の結論をいきなり伝えるのではなく、まずはお客様のことを深く理解することが重要なのです。





