予算を聞く際は「クローズドクエスチョン」で
「お客様から予算を聞き出せない」という場合、以下の聞き方がおすすめです。
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高橋
適切な提案見積を作成するために伺いたいのですが、御社にも「この金額を超えたら検討の対象外」というラインがあると思います。そのラインは●●万円と▲▲万円とでは、どちらに近いでしょうか?
営業がよくするのは、「ご予算はいくらですか?」というオープンクエスチョンです。これはお客様の立場からすると、「ああ、ここで答えた金額に合わせて提案を作るのだろうな」という意図が直感的にわかります。そのため、「ご予算はいくらですか?」と聞かれたお客様は「むしろ、いくらでできるかを提示してください」と返答しやすくなります。
お客様が予算について答えてくれない理由の1つには、「予算が決まっていない」ということがあります。そのため、「ご予算はいくらですか?」という質問は良い回答が得られにくい傾向にあります。
営業としては、予算がわからないと提案が作りづらいです。そこで、予算を聞く際には「何のために聞くのか」を説明する「枕詞」を使うようにしましょう。その際、「営業側の都合」ではなく、「お客様のニーズやご要望に沿った提案を作るため」という趣旨を込めた表現をすることが重要です。
予算を確認する際は、「予算」という言葉よりも、「この金額を超えると検討の対象外となるライン」という言い方のほうが、お客様も答えやすくなります。「予算」という言葉を使うと、お客様は「いくらと回答するのが自分にとって得か(お得な買い物になるか)」と考えてしまい、回答を躊躇する傾向があります。
そのため、「検討対象の上限額」という観点で聞くのがおすすめです。「AかBか」という選択肢付きクローズドクエスチョンで金額の目安をこちらから提示すれば、お客様も事実に基づいて答えやすくなります。
その際、以下の設定で質問をすると、提案単価が上がりやすくなります。
- 「●●万円」は予想される予算額の1.2〜1.5倍
- 「▲▲万円」は予想される予算額の2〜5倍
このように選択肢付きクローズドクエスチョンで質問すれば、提示した金額よりも実際の予算が少ない場合、お客様が自発的に予算額を上げてくれます。それは、お客様もその方が良い提案を受けられるということがわかっているからです。
「予算を伝えることのメリット」を感じてもらおう
予算の駆け引きを避けるための1つの方法として、「松竹梅」のような形で複数の選択肢を提示するアプローチも有効です。例えば、以下のように聞いてみると良いでしょう。
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高橋
適切な提案・見積もりを作成するためにお伺いしたいのですが、御社内で予算に関して松竹梅のような段階的な想定があるのではないかと思います。それぞれの段階でどの程度の金額をお考えでしょうか?
ここで、最低額の「松」の金額と最高額の「梅」の金額がわかれば、その範囲内で見積もりを作成することができます。
予算についてお客様が明確な回答を避けられる場合、それは「情報を開示することのメリットが不明確であるために慎重な態度を取られている」ということが考えられます。「予算を開示することで、より良い提案を受けられる」ということをご理解いただければ、お客様は予算を教えてくれるはずです。あるいは、お客様ご自身に予算の権限がなくても、可能な限り情報収集に努めていただけるでしょう。
そこで重要なのが、「予算を伝えることのメリットをどのように実感していただくか」ということです。その点が明確になれば、予算についてより率直な対話ができるようになります。
お客様に予算を伝えることのメリットを感じていただくには、確実にリターンをお返しできることを伝えるのが重要です。お客様が予算を伝えることについて不信感や不安感をお持ちになる背景には、過去の発注で期待通りの成果が得られなかった経験や、あるいはそもそもそのような投資の経験がないことによる不安が存在する可能性があります。
もし営業が常にお客様に対して投資額以上のリターンを還元することを当然のこととして実践していれば、それはお客様との商談を通じて自然と伝わります。しかし、多くの営業は受注獲得や売上目標の達成をゴールとしがちであり、お客様に投資額以上のリターンを提供するという視点が欠落してしまうことがあります。
本当にそれが投資額以上のリターンになるかを見極めるには、お客様のことを深く理解する必要があります。そのため、お客様の内情などについてできる限り詳しく聞くことが重要です。
お客様の未来について「2つのシナリオ」を描こう
ただし、投資によるリターンを評価する際、その投資に起因するリターンなのか、あるいはその投資がなくても得られたであろうリターンなのかを区別するのが難しい場合があります。
この点を明確にするには、お客様との議論で2つのシナリオを提示することが効果的です。そのシナリオは以下の通りです。
- シナリオA:現状のまま特に何も対策を講じなかった場合に想定される未来
- シナリオB:課題やボトルネックが解消された理想的な未来
この両方のシナリオをお客様との議論のテーブルに載せることで、より具体的で現実味のある対話ができます。この両者を可能な限り数値で表現できれば、投資対効果についてより具体的に議論することができます。
そうすると、営業としてはお客様に「投資して良かった」と感じていただけるような支援を行う必要が出てきます。結局のところ、お客様に投資額以上のリターンをお返しすることができるかどうかは、お客様の未来における2つのシナリオをしっかりと提示できるかどうかにかかってくるのです。
この部分が曖昧なまま商談を進めていくと、お客様は「本当にこの投資で良い結果が得られるのだろうか?」という不安を感じ、「もう少し検討させていただきます」と言いがちです。お客様が「もう少し検討させていただきます」とおっしゃる背景には、この2つのシナリオが明確に見えていないということが根本的な要因として存在する可能性が高いです。
これら2つのシナリオをテーブルに並べ、現実感を持って話し合うことができれば、お客様にとって投資判断が容易になるはずです。
このような対話ができれば、お客様にも「成功に近づくには予算に関する情報を正確に共有した方が良い」ということがご理解いただけます。つまり、予算の聞き方は単なるヒアリングのテクニックに関する問題なのではなく、「お客様にどれだけ確実なリターンを提供できるか」という本質的な問題なのです。





