最も影響力が大きいのは「要件定義」
「完全自由競争が5割強、出来レースが3割弱」というのが企業の購買活動における実態です。別の見方をすると、公共の入札案件でなければ「提案前に実質的な決着をつけに行くことができる可能性は3割弱ある」ということになります。では、どうやって「提案前の決着」を狙いに行けばよいのでしょうか。それは、お客様の購買行動の実態を紐解くと見えてきます。

お客様が発注先のベンダーを選ぶうえで実質的な影響力が最も大きいのは「要件定義」です。そして、要件定義のやり方は多様でバラついているものの、ベンダーからの提案で要件定義が決まるケースは全体の8分の1(12.8%)存在します。では、要件定義における影響力を上げるためには、どうすればよいのでしょうか。


要件定義で求められるのは「早いレスポンス」「的確な情報提供」「コミュニケーション効率」が上位です。デモやトライアル、社内の情報整理、作戦会議といったアプローチも取られがちですが、最上位ではありません。レスポンスを早くし、的確な情報を届けつつ効率的にやり取りするには、メールと電話の活用がカギを握ります。

営業からすると、「出来レース」に持ち込めた案件というのは「楽勝案件」ということになります。他社との間で消耗する戦いをすることなく自社を選んでいただけるからです。逆に他社にそれをやられてしまったら「惨敗案件」ということになり、もはや商談をする前からほぼ勝負が見えています。
そのため、5割強ある「完全自由競争」(接戦案件)でどのようにして勝ち残っていくかが重要なポイントとなります。
お客様は「効率的なやり取り」を望んでいる
上記の通りベンダー選定において最も影響力が大きいのは「要件定義の段階」でしたが、それ以前の「情報収集の段階」や「課題認識の段階」も合わせると66.8%が営業が提案を出す前にお客様の方で頼みたい会社を決めているということが分かりました。
提案を一生懸命考えるということは営業としてありがちですが、実際は7割近くのケースはそれ以前に決着がついているということです。それは裏を返すと、こちらが提案前に効果的な活動をすれば、提案をせずして決めてもらえる確率が上がるということです。
「要件定義の段階」では、「早いレスポンス」「的確な情報提供」「コミュニケーション効率」が上位トップ3として挙げられていました。
営業からするとデモやお客様の情報整理といったことはやりがちですが、それにはお客様の時間をいただくことになります。営業からするとお客様に工数を取っていただいて自社の採用確率を上げたいところですが、お客様としては効率的なやり取りを望んでいます。その前提を理解しておくことが重要です。
ここは難しいところです。というのは、効率的なコミュニケーションだけでは営業も把握できる情報が少なかったり、お客様との関係を十分に築けなかったりするからです。
お客様との間の「ズレ」は生じるもの
そのような状況では、いわゆる「話の早い営業」であることが重要です。イメージとしては、「じっくり考えたとても良い提案を出す」というよりは、「早く提案の初期仮説が出せて、お客様からフィードバックが来たら即座に反映ができる」といったような「打てば響く感」のある営業であることが重要ということです。
「打てば響く感が大事」というのは、やはりお客様として提案を受けて一番困るのは、「あれ、なんかちょっとズレてるな」ということだからです。
この「ズレ」というものに対してどのようなスタンスで臨んだらよいかについては、色々な考え方があります。「ズレをなくそう」という努力はもちろんやった方が良いですが、「ズレをゼロにするということはできない」という現実を認識することも重要です。
どういうことかというと、どんなにズレないようにしようとしても、お客様の購買プロセスは複雑で様々な人が関係してくるため、やはりどこかで「何かちょっと違うな」「ズレてるな」ということが出てくるからです。
実際、お客様へのアンケートで「発注決定において困ること」を聞いたら、一定の割合で「どうしてもほしい提案が来なかった」という回答がありました。「お客様のご要望や課題に対して答えよう」とどれだけ努力をしても、「ちょっとズレてるな」ということはあるのです。
だからこそ、「ズレをゼロにすることは現実的に難しい」ということを心得た上で、そのズレを最小限にするよう努力することが重要です。
「満額回答」は難しいということを理解してもらおう
しかし、営業の方から「そうは言っても、そもそもうちの扱っている商材は営業があれこれいじれないんです」という声が上がることがあります。
例えば、ソフトウェアのサービスを提供している企業だとしましょう。その場合、「お客様がほしい機能を、うちのサービスは備えていない」ということがあります。これは「営業が開発して実装する」ということができません。「どんなにカスタマイズしても満たせない」ということです。こういうケースはよくあります。
判断軸を持つのはお客様ですが、実際にはお客様のご要望を100%叶えることが難しいケースの方が多いのです。これは逆に考えると、100%応えるのが難しいということを、お客様に理解していただくことが重要であるということです。
人間が望むことというのは目に見えないものですし、ある意味できりがないです。
しかし、「今ある前提でどうやってうまくやるか」という発想に切り替えたら、やり方次第で出来ることは多くあります。
お客様には「もっと良い商品やサービスがあるのではないか」という疑念が常にあります。
確かにもっと優位性のある商品というのはあるのかもしれませんが、人はその「もっと良い商品・サービス」が見つかったらそこで満足するかというとそうではなく、「さらにもっと良いものを探そう」となることもあり得るのです。
実は「お客様の判断軸」は流動的
そこで必要なのは、営業がお客様に対して「いかに良い使い方をしていただくか」についてきちんと伝えることです。そして、そのカギを握るのが「ラリーの往復」です。
営業から提案を受けて「あとはこちらで判断します」という世界観であれば、お客様の疑念はいつまでも消えません。しかし一方で、人間には「時間をかけて考えたから、やっぱりこれでいきたい」と思うことがあります。ここで、「ラリーの往復」が効いてくるのです。
お客様の判断軸に対して、営業はそれが「固定的なものだ」と思いがちですが、実はその判断軸というものはすごく流動的で、あやふやなものなのです。
「100点満点」という選択はできません。そうなったら、「今ある選択肢をどのようにして活かすか」に意識を向けることが重要です。そしてそこは、営業が創意工夫できる部分なのです。
どんな商品やサービスを扱っていても、お客様から「なんか、こういうことってできないのかな?」といったことは必ず出てきます。もしそれが「どうしてもできないこと」なのであれば、そこに対して「ラリーの往復」を重ねることで「この現実を受け入れて、その上でどう使うか」という方向に発想を切り替えていただくことが重要です。そこに、営業の介在価値が出てきます。
そして、こういったことができるようになると、提案の中身で勝負する以前に「よし、この営業から買おう」と思っていただけることが増えていくのです。





