お客様が「はぐらかす」ことに「大きな理由」はない
弊社が実施した「お客様1万人調査」では、営業がお客様に予算や検討状況などを教えてもらえずにはぐらかされてしまうとき、実はそこにはそれほど深刻な理由があるわけではなく、お客様は本当に些細な理由で答えを避けていることが多いという結果が出ました。
「お客様1万人調査」では、「営業が予算や検討状況を質問してきたとき、正直に答えずにはぐらかしたことが『頻繁にある』あるいは『たまにある』と回答された方がどのような理由ではぐらかしたのか」を調べました。
以下は上位3位の回答です。
- 質問に答えることによるデメリットやリスクを心配しているから話さなかった:30.8%
- 特に深い理由はないが、何となく警戒しているから話さなかった:20.6%
- 当たり障りのない答えを即座に返したところ、それ以上突っ込んでこなかった:13.8%
このように上位3位の理由は、言ってみれば、それほど深刻な理由ではないことがわかります。
ただし、営業に対してネガティブな印象を抱いているために話してくれないケースもあります。以下は営業へのネガティブな印象によって回答しなかったケースです。
- その営業に発注する可能性がゼロに近いので話さなかった:13.4%
- 営業に対して前向きな信頼を抱くことができなかったから話さなかった:12.8%
- 営業はどうせこちらを理解せず一方的に売り込んでくるだけだから話さなかった:11.2%
このようにお客様が営業に対して良い印象を抱いていないケースもありますが、それは少数派であることがわかります。
注目に値するのは、最上位の「質問に答えることによるデメリットやリスクを心配しているから話さなかった」です。このことから、最も重要なのは「なんとなく不安だから、はぐらかしている」というお客様に対して、きちんと踏み込んで聞くことができるかどうかであると言えます。
「境界線」を意識してお客様に踏み込もう
では、どのように踏み込んで聞けばいいのかということですが、テクニカルには枕詞が非常に効果的です。しかし、営業からよくいただくご相談は「踏み込んで聞くのが怖い」というものです。「質問して関係を悪くしてしまったらどうしよう」「聞き方がまずくて怒らせてしまったらどうしよう」といったように、踏み込んで質問することを怖れているのです。
そこで重要なのが「境界線」です。
「境界線」を超えてしまうと、それは踏み込み過ぎになります。少し失礼な質問をしてしまったり、お客様があまり聞かれたくないことを聞いてしまったりして「境界線」を越えてしまうと、お客様の気分を害してしまいます。一方で、その「境界線」を超えなければ、お客様が不快に感じることはありません。
ところが、多くの営業はその「境界線」が実際よりもかなり手前にあると思い込んでしまい、結果として踏み込んで聞くことを躊躇してしまうのです。
では、どうやったらその「境界線」が実際のところどの辺りにあるのかを知ることができるのでしょうか。
お客様との関係性は様々です。例えば、以下のような関係性があります。
- 何を聞いてもある程度教えてくれるような関係性
- 発言に気を使わなければならない関係性
- 正直なところ案件化は難しいと感じるような関係性
これは、『無敗営業 「3つの質問」と「4つの力」』(日経BP)でもお伝えしている「楽勝案件」「接戦案件」「惨敗案件」という分類に当てはめることができます。その中で、楽勝案件のお客様と惨敗案件のお客様については、ある意味でどのようなアクションを取ろうとも、結果はあまり変わらないと言えます。
具体的に言うと、楽勝案件のゾーンにいらっしゃるお客様は、多少マイナスな対応があったとしても、結局は発注をいただける状態にあります。一方、惨敗案件では、たとえ素晴らしいファインプレーをしたとしても成約は難しいです。
このような楽勝案件や惨敗案件は、ある意味で様々なアプローチを試してみることができる機会だと言えます。このような楽勝案件や惨敗案件は接戦案件に比べるとある程度のリスクを取ることができるのです。
一方で、気をつけなければならないのは接戦案件です。接戦案件ではマイナスな対応をしてしまったらそれが失注に繋がってしまいますし、逆に良いパフォーマンスを発揮できれば受注に近づくことができます。つまり、接戦案件は「やり方次第」ということです。
お客様に「境界線」の位置を確認しよう
では、どのように「境界線」を把握すれば良いのでしょうか。
ある程度の関係性ができていて楽勝案件の対象となっているお客様は、おそらく顔なじみだったり、長年の付き合いがあったり、あるいは自社のファンだったりするはずです。そこで、まずはそのような楽勝案件のお客様に商談で踏み込んだ質問をしてみるのです。そして、その上で率直に「そこまで聞くのは、少し踏み込みすぎでしょうか?」と「境界線」の位置を確認する質問をしてみるのです。
そうすると、多くの場合お客様も率直に答えてくれます。「いえ、そんなのは気になりませんよ」という反応かもしれませんし、あるいは「少し突っ込んで聞いてくるな、と思いましたよ」というような反応かもしれません。
そこで、すでに関係性ができているお客様であれば、次のように聞いてみるのです。
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営業パーソン
これを機に伺いたいのですが、〇〇さんは他の会社からもよく営業を受けられていると思いますが、その中で踏み込んで聞いてくる営業はどのくらいいらっしゃるのでしょうか?
そうすると、大半のお客様は次のように答えるはずです。
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お客様
大体どこの営業もそんなに深く踏み込んでは聞いてきませんよ。
なぜそのように言えるのかというと、様々な調査で「営業が踏み込んで聞いてこないことに不満を持っているお客様の方が多い」という結果が出ているからです。
お客様には踏み込んで聞いてくれないことに対する不満が少なからずあるわけですが、そこで「過去において踏み込んで聞いてくる営業がいたかどうか」を聞いてみるのです。
そして、さらにその上で「過去最高に踏み込んで聞いてきた営業」の話を聞いてみることで、どのように質問すれば不快に思われないのか、その「境界線」に関する情報を集めましょう。そこで聞いた情報をもとにして、少しずつ「踏み込み度合い」を上げるのです。
ロールプレイで「踏み込み度合い」を上げよう
ただし、それを実際のお客様にすることが怖いという場合は、社内で練習するようにします。
社内で練習をする際にはロールプレイが有効です。ロールプレイをする際には、営業側は意図的に踏み込んで質問をするようにしましょう。ただし、その踏み込みに対して「少し不愉快だな」とか「ちょっと嫌だな」と感じるところがあれば、お客様役の方はきちんとそれを営業側に伝えます。「具体的にどの発言が気になったのか」「どういう聞き方をしてもらえればもっと答えやすかったのか」ということまで詳しく伝えるようにするのです。
このように身内同士でやるロールプレイであれば比較的気軽に踏み込んだ質問を練習することができます。
もちろん、枕詞を使って踏み込んだ質問をするということも十分可能です。しかし、それをする上でも「境界線」が重要です。この「境界線」が体感覚として「奥の方」にあると感じている営業は比較的踏み込んで聞くことができます。一方で、「境界線」を「手前」に感じている場合は、どうしても踏み込んで聞くことができません。
そのため、ぜひ今回お伝えしたアプローチを試し、「踏み込んだ質問」をしてみてください。





